The Arbinger Institute

We Change Mindset

□アービンジャー「箱」NEWS【Vol.327】2015/9/18

猛暑の後に、毎日が長雨、そして台風シーズンが到来。
関東北部に大きな被害の跡を残しています。

盛土した土手が決壊しているニュースを見て、
自然を治めることの難しさと共に、
牙を剥いた自然の前では、人間の無力さを改めて
感じていました。

そんな時、雨の合間に青空が広がると、ほっとします。

忙しいとき、長時間集中しているときに、
”甘いお菓子”をちょっと食べたときの感覚に
少し似ているなぁ、と感じました。

それは、”小さな幸せ”の感覚、
”安心”の感覚
なのではないでしょうか。

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『そして、誰も来なかった…』: 斎藤実
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”そうかぁ、もう15年も前のことなんだぁ~”

先日、友人が勤める会社を訪問した際、
偶然にも、15年前迄4年間、毎日通勤したオフィスと同じビルだった。

当時、複数の会社が共同で行うプロジェクトで、
私は総合テスト隊長を担当したことがあった。
総合テスト隊長の役割は、テストの進捗や品質を管理する仕事で、
例えば、障害発生時の仕切り、毎日の定例会議(朝会、夕会)の運営等、
いわゆる声が大きい人が担当する仕事。

ある取引先の担当部分が遅れて、他社に影響が出始めたときに、
その取引先のテスト担当者を、毎日の定例会議で、
「他社さんが迷惑してるんですよ! いつになったら対処できるんですかっ!」
などと厳しい質問をしたり、

「明日の朝までに対応しないと、お支払いできないかもしれませんよ!」
などと恐怖心をあおりながら、メンバーを徹夜させたり、

一度は理解をしたようなことを前に言っておきながら、
「そういえば、そういう話は、私は聞いていませんね。
御社だけで、いつまでにそれを対応するんですか?」
等と、はしごを外して、急に顧客の立場のようになって、
一緒にやってきたメンバーの脅威になるような圧力を与えたり、… 等。

当時の思い出したくない記憶が、走馬灯のように、私の脳裏をぐるぐると
巡り出してきた。

そして、

”あの記憶…”

までもが、鮮明に思い出されてきた。

「おい、斎藤。 総合テストも予定通りになってきたようだから、
取引先の皆さんと一緒に、中締めということで、
暑気払い、でもしたらどうだ?」と上司にアドバイスされたので、

「そうですね。おいしいドライなビールでのどをうるおして、
後半戦に向けて、士気をあげてゆきたいですね。」
などと答え、早速、日程と店のチョイスを始めた。

”テストの日程からして、来週の金曜日しかない!
あと、お店も明るい南米風の飲み屋にしよう!”

一週間前から、暑気払いに参加するように、会社の同僚だけではなく、
取引先の担当者にも、毎日の定例会議でアナウンスし、リマインドを続け、
最終的に20名が参加予定となり、
”まぁまぁにぎやかな暑気払い、になるだろうなぁ”、
と思われた。

暑気払い当日、多少、総合テストの問題が起こっていたが、

”この程度の問題ならば、みんな参加できるだろう!”

と判断し、自分で予約をした店に、少し早めに行き、
20名分の予約をしたテーブルに1人で座り、参加予定のメンバーを待った。

開始時間になったが、自分のほかに誰も現れない。

”ちっ!、どの会社も、時間にルーズなんだよな!”
”いいや!遅れるやつが悪いんだから、先に飲んでよ~うっ”

いらいらしながら、1人先に、ビールを注文して、
まずは、のどを潤した。

”あぁ~、うまいっ!”
”テストは何とか回っているし、俺はよくやっているなぁ!
隊長として、結構、センスいいんじゃないっ!
それにしても、もう開始時間をとっくに過ぎてるのに、
誰も来ないなぁ~。”

開始時間から、10分が過ぎても、誰も現れなかった。

”参加する、と言っておいて、遅れるんだったら、
電話の一本くらい入れるのが、社会人の基本動作だろう!”

1人で腹を立てていた。

開始時間から、20分が過ぎても、まだ誰も現れなかった。

”いや~、ちょっとこの店、離れていて、わかりづらいから、
迷っているのかなぁ”
”いやいや、地図も参加予定のメンバー全員に配ってきたし、
子供じゃないんだから…”

今度は少し不安になり、自分の準備に問題がなかったかどうか、
あれこれ、考え始めていた。

”あの定例会議でアナウンスするだけじゃ、だめだったかなぁ、
メールも前日案内、直前案内、とか、
出しておいたほうがよかったのかなぁ。”
”いやいや、彼らからすると私は客になるんだから、
あれだけ毎日リマインドしてやって、
しかもお金はこちら持ちでやってやるんだ!
無理だったら、事前に丁重にお詫びをするのが普通だろっ!”

開始時間から、30分が過ぎても、まだ誰も現れなかった。

”何か大きな問題が起こってしまったのかっ…”

不安な気持ちに耐えきれなくなり、同僚の携帯電話を鳴らした。

同僚からは、
予定の活動を終えられず、
誰も席を立って出かけようとするメンバーがいないことを告げられた。
その同僚も、お客様や、取引先の担当者からの問い合わせ対応で
席を離れることができない、
と言う。

私は電話を切り、残りのビールを一気に飲み干すと、
店員に会計を申し出て、20人分のテーブルチャージと、
ビール一杯分の金額を払いながら、
「いや~ぁ、まいった! 大きな問題が起こってしまって…」
と頭をかきながら、店員に軽く会釈をして、逃げ出すように、店を出た。

”どうなっているんだ!”
”誰も来ないって、これは本当か!”
”俺へのあてつけかっ!”
”くっそ~っ、明日はもっと厳しく問い詰めてやるっ!”

拳を握りしめ、紅潮した険しい表情で、オフィスに向かって歩いていた。

オフィスに戻り、自席に向かう途中の通路で、取引先の担当者と鉢合わせすると、
「斎藤さんに言われた、本日中期限の作業が終わらなくて、
隣のチームのメンバーも入れて、対応中です。
かなり遅くなりますが、なんとか仕上げますよ。
それと、総合テストでデータベースの障害が発生していて、
その対応もしているので…、
あっ、暑気払いっ!、そうでしたねっ、すみません。今日は無理だと思います」
私に頭を下げて、ばたばたと障害対策スペースへ小走りに去っていった。

すれ違う他の取引先の担当者も、皆、険しい表情で、ばたばたとしている。
よく見ると、顔色の悪い担当者が多い。

”こんなに状況はひどかったのだろうか…”

自席に戻ると、隣の席に、先ほど電話をした同僚がいて、
「データベースの障害の件で、取引先の担当者と対策を検討しているんだ。
ひょっとしたら、暫定策で、なんとか、かわしていかないといけないかもしれない。
そう、いくらなんでも、今日の暑気払いは、無理だよぉ~」

同僚はそう言い終わると、席を立って、その場を離れながら、
ぼそっと、

「わかってないんだよなぁ~」

という小声が、背中越しに聞こえた。

信頼していた同僚からの声が、”ぐさっ”、と突き刺さった。

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■ 編集後記
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データベースの障害や、依頼した仕事が終わらないから、誰もこなかった、
ということではないことが、今はわかる。

それはつまり、
あの時、プロジェクトメンバー、とりわけ取引先の担当者に対して、
どのような態度で接してきたのか、どのようなことを要求してきたのか、
どのように彼らのことをみなし、扱ってきたのか、
それを考えれば、誰もこなかったのは、当然の事態にちがいなかった。

そして、15年前のことを、今から、訂正することはできない。

取引先のメンバーに、お詫びをすることもできない。
そのプロジェクトを最後まで担当してくれたみんなに、
心から「ありがとう」と伝えることもできない。
日々、気になっていたこと、困っていたこと、本当はどんなプロジェクトに
したかったのか、今からでは、メンバー一人一人に聞くことなんて、
もちろんできるわけがない。

この記憶を思い出すたびに、罪悪感で一杯になり、後悔の念に打ちひしがれる。
だから、できれば思い出したくない。

日々是修行。
自分の箱とのつきあいは、まだ、始まったばかりだ。