The Arbinger Institute

We Change Mindset

□アービンジャー「箱」NEWS【Vol.342】2016/1/8

新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

みなさんは、どのような一年のスタートになりましたか?

休暇を加えて一週間以上のお休みをとって、海外に行かれた方、
暦通りの短い正月休みだけで、忙しく帰郷をされた方、
どこにも行かず、自宅で時間を贅沢に使ってのんびりとされた方、

皆さん、それぞれの過ごし方をされたことと思いますが、
満足感、充実感が貯まるようなお休みになっているといいですね。

お仕事、ご商売で年末年始はフル回転されていた方は、
これからお休みを取って、休んでくださいね。

今回は、

誘惑が多すぎる年末年始を
なんとか切り抜けることができたダイエット中の斎藤実が
担当させていただきます。

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■ 「親ばか」の気持ち : 斎藤 実

大晦日の寒い早朝、いつもとはまったく違う、通勤客のいない、
がらがらの電車に乗っていた。
すると、車両の一角に、いかにも野球部らしい少し汚れた
エナメルバックと、五分刈りに学ラン姿の高校生が、
眠そうに座りながら、おにぎりを食べている姿を見かけた。

大晦日にも練習があるのだろう。

その時、ふっと、この夏の記憶がよみがえってきた。

「ゲームセット!」

主審の合図で、坊主頭の両チームが挨拶をし、
勝った対戦相手が校歌を歌っている。

息子は高校三年生。最後の夏が、たった今、終わった。

夏の県大会の三回戦で、第一シードの強豪と対戦し、
善戦むなしく1対6で敗戦。

ベンチ前で整列をして、下を向き、涙を流している。

小学校の頃から、ある有名私立高校で野球をエンジョイする、
という目標を掲げ、大変な塾を自ら選び、勉強と野球だけに
取り組んできた中学時代。
合格間違いなし、と誰からも認められていたにも関わらず、
得意科目でまさかの失敗、目指していた有名私立高校には入れず、
県立高校へ入学。
もちろん、高校でも野球部に入ったが、左利きでもあり、
投手へのコンバートを監督にすすめられ、
新たなチャレンジをいくつもやってきた。
小柄な身長をカバーするための試行錯誤。
サイドスローにして、練習のしすぎにより肋骨を疲労骨折、
他にも怪我は少なくなかった。
2年生になっても、夏の県大会にベンチ入りできず、
スタンドの応援団だった。

最後の夏。背番号11番。控え投手。
チームはエースピッチャーの頑張りもあり、
三回戦まで順調に駒を進めた。
結果的に息子の出番は、まだなかった。
三回戦は強豪との対戦だけに、リリーフでの出番がある
ことを想定し、息子は対戦相手のスコアーを取り寄せ、
数日かけて、分析準備をしていた。

三回戦の試合中、彼はスタンド下にある屋内ブルペンで、
自分の出番を待ち続けた。
水分をとりながら、対戦相手のスコアーを何度も見直し、
そして、いつでも交代できるように、
投球練習とイメージトレーニングをして、状態を整えていた。

私はスタンドから、ビデオと一眼レフカメラを抱え、
彼の出番を、今か今かと待ちわびていた。

6回に追加点を許し、どきどきしながら、
「このタイミングか!」、と思いきや、
エースピッチャーが続投。更に追加点を許す。
8回には、背番号10番の別の控え投手が当番。
9回2アウト。最後のバッターとなった代打も、
息子ではなかった。

息子はずっと、ブルペンで自分の出番を待ち、
ただただ準備をし続けていたのだ。
彼の存在が、忘れられていたかのように…。

球場の外で、200名の応援団の前で、野球部員が一列に並び、
主将が試合の報告と、応援への感謝の言葉を、
涙をこらえながら伝えている。

息子は、帽子を目深にかぶりながら、足をがくがくさせて
立つことができないくらい号泣しており、
チームメイトに肩を担がれながら、列の端に並んでいた。

思い返せば、朝、昼、夕の練習、土日も朝から遅くまで練習、
そして練習試合。他には、何もないくらいの高校生活だった。

泣き崩れている姿から、
息子の無念さは、痛いぐらいに伝わってくる。
そして今日で部活から引退。
この瞬間に、彼から、高校野球が取り上げられてしまったこと、
もう、元には戻れない、その辛さ、失望感も伝わってくる。

主将の報告の後、泣き顔と笑顔が混ざり合った表情で選手や監督、
マネージャーがお互いにその場で抱擁、握手をしながら、
健闘をたたえ合い、また、感謝の言葉、お詫びの言葉を、
伝えあっている感動的な場面に移った。

私は、息子に共感し、胸に深く大きな穴が開いたかのような
気持ちになっていたが、
気丈な振る舞いで、その場面を記録に残そうと、
何枚もシャッターをきっていた。

そして、監督、コーチの様子を写そうとした瞬間、
カメラ越しに、突然、むなしい怒りの気持ちがふつふつと
沸いてきた。

”なんであの6回に息子を出さなかったんだ!
試合の流れを変えるには、あそこで代えるべき
だったはずだ。しかも、点差が開いた9回の代打
がなんで、2年生なんだ。
3年生の息子をなんでださなかったんだ!
これが最後の打席なんだぞ!
何か気にいらないことでもあるのか!”

私は、最後に、監督に一言、
今の感情をぶつけたくて仕方がなかった。

そして、監督のいる方向に、呼吸を荒げながら、
”さぁ~っ、伝えてやろう!”、と歩き出した瞬間、

号泣してぐちゃぐちゃの泣き顔を堪えて
むりやり笑顔をつくって、チームメイトと、
応援に来てくれた同級生と、一緒に肩を組んで、
ポーズをして、写真を撮ってもらっている息子が
目に入ってきた。

途端に私は、す~っ、と気持ちのたかぶりが引き、
我に返って

”やっぱり、俺は親ばかだ!
まったく何をしようとしているんだ!
息子の青春の清らかな時間に、
雑音をたてるだけじゃなくて、
お世話になった監督に対して、
ゲーム采配にクレームをつけ、
あたかも息子は被害を受けたかのように、
しかも息子が出なかったことが敗戦要因などと、
その正当性を説くような内容で、
文句を言おうとしているじゃないか!
本当に、俺は、親ばかだ!”

と自分のとろうとした行動を、情けなく思った、
その次の瞬間、

監督が私に近づいてきて、

「僕のヘボい采配のせいで、
彼を試合に出すことができなかったこと、
すみませんでした。」

と頭を下げながら、私に詫びていた。

「監督、そんなふうに気にしないでください。
今日、第一シードにこれだけ善戦したのですから、
よかったじゃないですか。ほんの少しの差でしたね。
それから、いつも心に響く言葉を息子に送ってくださり、
ありがとうございました。
公式戦では活躍できませんでしたが、3年生になって、
練習試合では、いい結果も時々出るようになりましたし、
彼は成長してきたと思います。ありがとうございました。」

と伝え、監督の手をとり、固く握手をしながら、
私は深く頭を下げ、感謝の言葉を伝えることができた。

息子はまだ、笑顔と泣き顔を交互に、親友や、
チームメートたちと、抱きあい、何かを叫びながら、
カメラにポーズをとっている。

一瞬の出来事だっただけに、
”いやぁ、あぶなかった~っ!”
という安堵感と共に、

私は息子への感謝の気持ちで包まれていた。

それは、

息子にとっての高校野球は、
”目立った結果もでない、辛く、厳しいものだった”、
と、私が勝手に思い込んでいた、ということを、
息子は今、私に気づかせてくれたからだ。

真実は、

息子にとって、楽しいときも、つらいときも、
いつも共にしてきたチームメンバーや親友との友情
という宝物を、高校野球は与えてくれたのと共に、

この夏の経験は、将来、大きな糧になってゆくに
違いないのだ。

これだけ努力をして、集中して、体を鍛え、
ひたすら投げ込んでも、走りこんでも、
何度も準備に打ち込んでも、結果を出す機会さえ得られない、

つまり、どんなに一所懸命になって努力をしても、
期待していた結果にならなかったり、
自分の思い通りにならないことも、
これからいくつも乗り越えて生きてゆかないといけない、
ということが、きっとわかっただろう。

そして、同じように、無念さ、辛さを経験している人に、
共感できる力を獲得した息子は、
ただ、横にいるだけで、
その人を助けることができるようになるだろう。

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■ 編集後記

今、息子は、もちろん受験準備に追われている。
夏から始めただけに、準備期間は短いが、
有名私立大学への現役合格を目指し、
睡眠時間を削り、予備校通いの毎日。

そして、なにより、
「大学でも野球をやりたい!」と言っている。

私は彼の為になることだったら、
何でもやってあげたい、
という気持ちに変わりはない。

そして、彼をずっと、応援し続けたい。

私は、やはり、「親ばか」、にちがいない。

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