□アービンジャー「箱」NEWS【Vol. 280】2014/10/10
みなさん、こんにちは
食欲の秋に乗じて、食べ過ぎ、飲みすぎには、気をつけないといけませんね!
ウェイトオーバー気味の、斎藤実です。
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■ 清らかすぎる流れ : 斎藤 実
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「背番号もらえなかった…」
食事中にポツリ、息子がつぶやいた。
高校二年生。小学生のころからずっと野球を続け、県内の公立高校の硬式野球部に所属。
ハードな部活と共に、夜は学習塾に通い、忙しい学生生活を送っている。
左きき、中学時代は、ファーストで主軸を打っていたが、高校では、監督のすすめもあり、
ピッチャーに転向し、新しいチャレンジをしている。
いよいよ県大会が始まるのだが、二年生9名の内、ベンチ入り出来たのは7名。
残念なことに、その残り2名になってしまったようだ。
「お前はがんばっているよ! たいしたもんだ。
高校から初めてのピッチャーにチャレンジしているんだから。
みんなが試合をやっている間に、もっと練習しよう! 次に備えよう!」
久しぶりに一緒に風呂に入り、そんな励ましの言葉をかけることができた。
今年は毎週末、県内の高校のグランドまで、私は車で出かけて、練習試合観戦を
楽しみにしている。
ここ最近は、2試合目の後半に、1~2回くらい、息子が試合で投げる姿を見て、
まるで、自分もマウンドで投げているかのように、気がつくと、わくわく、どきどきしている。
県大会まで、一か月になり、ベンチに入れないメンバーは、基本的には練習試合に
出してもらえないことがわかっていた。 多分、息子はベンチワークをするか、
せいぜいブルペンで投球練習をするしかないだろう。
それでも、そんな姿を一目見ようと、私は、週末のボランティア活動の用事を済ませて、
いつものように、高校のグランドまで、車で出かけた。
試合展開が速かったのか、私がグランドに着いたときには、もう、二試合目の後半まで進ん
でおり、息子は、想定通り、ひたすらブルペンで投球練習をしているようだった。
そして、そのまま試合は終了し、やはり登板機会はなかった。
私は、そんな息子と車で一緒に帰ろうと思い、
「駐車場にいるので、一緒に帰ろう!」
というメールを、彼の携帯に打った。
30分くらい、待っていただろうか。
試合後のミーティング、片付け、着替えを済ませて、3年生がまず、ぞろぞろと校門に
向かって歩いてきた。 何名かの父兄は、私がしようとしていることと同じように、
親子で一緒に、車で帰ろうとしていた。
次に、2年生5~6名が、大きな遠征用のバックや遠征道具を持ちながら、足早に校門に
向かってきた。どうやら、バスの時間を気にしているようだ。
その中に息子を見つけた。 彼は身長165センチしかなく、2年生の中では、
一番背が低い。 遠征用のバックが一段と大きく見える。
突然息子だけが、立ち止り、応援に来ていた大学生のOBに、
「ありがとうございました!」
と、深々と礼をした。 そして、他のメンバーに追いつくために、校門に向かって
走っていった。
私は、OBがいる後ろの駐車場にいて、その一部始終をみていたが、なぜか息子に声を
かけるなどして、私のことを気づかせるような行動ができなかった。
慌てて、校門のほうまで追いかけたが、全力で走る後ろ姿を見て、追いかけるのをやめ、
車に戻り、彼の携帯に、2回、電話をしたが、留守電になってしまう。
無理もない。 バス停まで、走っているのだから…。
息子がOBに礼をしている時に、
もし、私が
「おい! メール見てないのか? 迎えに来たんだからな!」
と言いながら、
息子の目の前に現れたら、息子はどう感じただろう?
彼は少し驚くか、ためらうような素振りをするだろうが、分別がある大人の性格から、
私に感謝をして、きっと車に乗ったにちがいない。
それにしても、なぜ私が、大声で気づかせる行動をとれなかったのかが、その時、
私自身、わからなかった。
ともあれ、すぐに、私は駐車場を車で出て、バス停方面にむかった。
そこには、丁度バスが停まっていて、野球部のメンバーが順番に乗り込んでいた。
そして、バスに乗り込む列の中に、右手にパンを持って、それをほおばっている息子を
見つけた。 おなかが減っているのだろう。
一瞬、私はそれをみて、車を傍の路肩に止め、息子を呼び止めようと思ったが、
なぜかまた、声をかけられなかった。
数年前の自分ならば、車の窓から顔を出して、
「おい!迎えにきたんだから、はやくこっちに来いよ!」
と大声で叫んでいたにちがいない。
私は、その場を通りすぎて、路肩に車を止め、この後どうすべきかを、考え始めた。
バックミラーに、バスがバス停を出発するのが見えた。
バスの後を追いかけたほうがよいのか…。
いや、JRの駅まで先回りしたほうがよいのか…。
次の瞬間、携帯がなり、息子からだった。
「ごめん、今メール見た。もうバスに乗っちゃった!」
私は、なぜか穏やかに、
「ああ、それじゃぁ、電車で帰ってきてぇ。 みんなと帰ってきてぇ。」
と自然に答えていた。
彼は「わかった! それじゃぁ」と言って、電話を切った。
私は、一人で車を運転して家に戻る途中、息子がブルペンで投球練習をしていた姿や、
OBに深々と礼をしていた姿、おなかが減ってパンをほおばっていた姿を、
思い浮かべながら、今日は、何をしに行ったのか、ずっと自分に問いかけていた。
家に帰ると、笑顔の家内から、
「JRの駅前のマックに、みんなで寄って帰るって。
おなかが減ったって」
と、教えてもらった。
その夜、食事をしながら、私は息子に、
「いやぁ~、ごめん。 折角行ったのに、
乗せてかえれなかったよぉ。 一体、何しに行ったんだろうね。 あははっ!」
と、笑い話のように、話していた。
そこには、清々しい青春を謳歌する息子と、それを見守る家族がいて、
穏やかな時間が流れていた。
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■ 編集後記
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台風が関東地方を直撃した今週月曜日の朝、
遠距離通勤の私は、いつもより早めの電車に乗って、何とか8時半過ぎにオフィスにたどり着いた。 雨風が強かったせいか、衣服と靴が濡れ、靴下にも水がしみて気持ちが悪い。ずぶぬれ状態で、自席で衣服をふきながら、PCを立ち上げ、メールに目を通す。
室メンバーから、電話やメールがいつもより多く送られてくる。
あるメールに、
「台風の風雨が強いため自宅にいます。午後出社にさせていただきます。」
<心の中で>
むむぅ。 彼は通勤時間20分で、地下鉄も動いているから、これるはずなのに!
次のメールに、
「発熱のため、お休みさせていただきます。
以下のこと、○○さんへの引き継ぎです。
午前中の会議の資料は、サーバーに格納されていて、プリントするだけになっています。
△△さんへの引き継ぎです。
午後の打ち合わせでは …
◆◆さんへの引き継ぎです。
… 以上、よろしくお願いします。」
<心の中で>
こんなにしっかり引き継ぎメールを書けるんだったら、会社に来て仕事できるだろう!
次のメールに、
「近所の河川が警戒水位に近いので、自宅で待機しています。」
<心の中で>
そんな川、他にも沢山ニュースでやっているぞ! 電車が動いているんだから来れるだ
ろう!
んっ…? ああっ!
また、やってんのかぁ~、おれはぁ~、…
また、「自分は被害者」、「自分が勤労者の鏡」のような気持ちに、
なっているじゃないかっ!
みんなの安全を第一に、考えてあげないといけないのに…
日々是修行。
自分の箱とのつきあいは、始まったばかりだ。